故に私は

私の視線は気がつくと翻っている
故に私は大きなのっぽの古時計である
名前はまだ無いが気がつけば0時になっている
故に私は食器洗い用の洗剤である
油汚れをオカズにしているゴキブリなのだ
故に私は猫の額の独立国家である
目の前の大国を前に恐怖感から勃起しているのだ
故に私は文房具の刺さった肛門である
快楽を背に人間である事を放棄したのだ
故に私は坂本竜馬の隠し子である
三千世界の果てに産み落とされた一握の砂なのだ
故に私はボブディランのギターである
全ての瞞しを歌い瞞しの種を振りまいたのだ
故に私は御飯の炊けない炊飯器である
空腹を前にした者を絶望の淵へと叩き落すのだ
故に私は道化を演じている喜劇役者である
大根芝居も笑い飛ばしてしまえば良しとされるのだ
故に私は流れていくトイレの水である
流れていくのは時代と排泄物だけでいいのだ
故に私は貴方の親愛なる母親である
気付けば空が白む頃に貴方の隣で寝息を発てているのだ
故に私は痰壺の中の蛆虫である
厚顔無恥井の中の蛙とは言いえて妙である
故に私は神である
名前はまだ無い