小学生の時の想い出

hedonism2004-09-30

私の通っていた小学校の通学路に小さな家があった
その家は昔、洋裁の下請けをやっていた店の跡地だった
私が小学校に通っていた時にはすでに廃業していた
しかし、入り口の戸はシャッターも何もなく中が見えていた
古い足踏み式のミシンや断裁板の乗っているテーブル
そして何故か阿弥陀如来を祀ってあろう仏壇などが丸見えだった
その洋裁屋の痕跡の後ろには障子があった
いつも閉まっていたのだが不思議な事が一つあった
常に障子の後ろから紫色の光がぼんやりと浮き出ていたのだ
小学生だった私たちは様々な憶測を交わした
「宇宙人が住んでいるのではないか」
「幽霊なのではないか」
「妖怪が住み憑いてるのではないか」
どれも小学生の考えそうな幼稚な発想ばかりだった
ある日、私は塾の帰り道にその家の前を通った
いつも皆が気にしている、あの明かり・・・
いったい、あの明かりは何なのだろう?
子供だった私は好奇心を持ってしまうと手がつけられなかった
まず家の戸を開けてみた
鍵などは架かっておらず、すんなりと戸は開き中には居る事ができた
そして、障子戸を前にした
紫色の光が障子越しに見える
これで積年の謎が解ける 友人にも自慢できるだろう
子供ながらにそんな事を思った
すーっと少しだけ戸を開け中を覗いてみる・・・
その時、私が目にしたのは・・・
一人のお婆さんだった
燈籠を前にしてブツブツと何かを言っている
紫の光は燈籠だったのだ
しかし何を言っているのだろう
耳を凝らして聞いてみる・・・
「今日はM田S子さん、K下T雄さん・・・・」
ずっと誰かの名前を言っている
その時、聞きなれた人の名前が聞こえた
「K村Y久さん・・」
どこかで聞いた事がある名前だなと思ったその時だった
お婆さんがこっちを向いた
目があった お婆さんは少し微笑んだ
僕は全速力で躓きそうになりながら走って家に帰った
あの時、聞いた名前は誰なんだろう・・・
お婆さんに見つかった恐怖や名前を思い出せないもどかしさで
その日はロクに眠る事もできなかった
次の日、学校に行くと毎週月曜日だけにあるはずの朝礼が開かれた
白髪の校長先生は朝礼台に登ると開口一番こう言った
「昨日の夕方、4年2組のK村Y久君が盲腸炎のため死去しました」
僕は愕然とした そして思い出した
K村Y久君は同じ野球クラブの先輩だ
何週間か前に盲腸で入院してクラブに出ていなかったので忘れていた
私は朝礼が終わると鸚鵡のようにピーチクパーチクと
見た事や聞いた事をたくさんの人に話した
しかし、皆々胡散臭い者を見るような眼で


「そんな家はあったっけ?」


と言うのだ
私は学校の帰りにその家を確認しに行った
家のあったはずの場所は児童公園となり、小さな子供が
砂場でトンネルを作り遊んでいた
私はその子に訊ねようとした 昨日までここは家がなかったか
私はその子に近づいた
その時、私は聞いたのだ その子が童歌を歌うように
ずっと誰かの名前を言い続けているのを・・・



それ以来、私はそこの公園には行っていない
今日、車でふと通ったらその場所には立派なマンションが立っていた
そのマンションの中でも誰かが死を唱えているのだろうか・・・